素敵な「初体験」に夢を膨らませる、少女の妄想ラブストーリー『アダムとイブの方程式』(すぎ恵美子)
性欲旺盛な男と違って、女はあくまで求められるもの。Hなことなんて考えてません!
なんてのが主流だった少女漫画界で、「いやいや、女子だって実はそっちの方に興味津々なのよ」と、少女の性に対する好奇心や憧れを実に20年以上前から精力的に描いていたのが、本作の作者すぎ恵美子先生です。
当たり前だが女にだって性欲はあるわけで、ただ男と違うのは誰でも良いからヤりたいという感覚ではなく、心から大好きな人と結ばれることにこそ意味があるというのが女性の言い分。ましてや「初体験」は一生に一度の思い出として、最高にハッピーでロマンチックであるべきだ…そんな少女達のある意味勝手な憧憬を描いたのが本作です。
中高生をターゲットとしながら、物議を呼ぶほどの過激で直接的な性描写も多い、少女漫画界のエロ担当雑誌となった「少女コミック」。
すぎ恵美子先生は、そんな少コミH路線のパイオニア。
代表的なタイトルを見ると、
「Cherryのまんま」
「アダムとイブの方程式」
「ろまんちっく迷宮(らびりんす)」
「唇から魔法(マジック)」
「くる★くる みらくる」
「げっちゅー」
と、なぜか年をとるにつれてどんどん馬鹿っぽくなってきてる不思議。
初期代表作「アダムとイブの方程式」は、タイトル通り、男(アダム)と女(イブ)の肉体的な方程式を考える学園ラブストーリーです。
ヒロインの女子高生優絵の趣味は「ポルノ小説」を書くこと。
ところが、そんな小説を書いているくせに、優絵は男と付き合ったこともない奥手な性格。学校一のプレイボーイ一樹が、優絵の趣味を知って協力してくれると言って…。
ポルノ小説を書くのが趣味な女子高生という、さすがとしか言い様のない設定。しかも主人公が必要以上に、鈍感・奥手・ドジっ子と当時の少女漫画ヒロインそのもので、こんな子が実はポルノを書いてますよなんて、ないない。
仮にいたとしても、こそこそと教室で官能小説を書いている妄想少女なんて、例えどんなに容姿がよかろうが、恥ずかしいとか大胆以前に痛すぎです。
そんなぶりっこヒロインのお友達は、型物のメガネ女子に男好きなお色気ムンムン女子で、これまたどう考えたってリアルな教室ではお友達になりそうにない3人組。
そんな彼女らの教室での話題と言えば、年間を通して「いつ彼と初体験をするか」ばかりです。
男子高校生じゃあるまいし、女子高生が年中この話題しかないっていうのはいかがなものかと思いますが、「嫌よ嫌よも好きのうち」が定番であった少女漫画界で、女の子だって実はHなことに興味あるんだよってことを明るくストレートに表現していたこの漫画は逆に爽やかささえ感じてしまえます。
さらに好感度が高いのは、頭の中は終始Hなことばかりなむっつりちゃんなのに、意外や意外、進展は遅く、なんと最終巻のラストでやっと2人は結ばれるのです。(ちなみに初体験の描写もモノローグとシーツがメインで、2人の裸すらほとんどないあっさりしたもの)
それまで何をやっていたかというと、まあぎりぎりまで進んではやっぱり…みたいな展開を延々と繰り返している感じ。興味は大いにあるけど…という感じが、逆に今読み返すと、あれ意外と優絵って純情だったのね。と思えてしまう不思議。
また、こんだけサカっている彼女が近くにいて最終巻まで何もしない彼氏の紳士っぷりも見ものです。
あくまで「初体験」が目的となっている本作。
「げっちゅー」時代の作者が書こうとすれば、たぶん30ページくらいで目的達成、連載が終わってしまうんでないでしょうか。
アダムとイブの方程式(すぎ恵美子)
連載雑誌:少女コミック 発表年:1987年
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